お城のガイドで、ジョークは、時々粋な役割を果たしてくれる。国籍間や感覚上の距離感を、近づけてくれるので、私も時々使う。マニュアルに載っている“They could enjoy three moons at the same time.”や、”I think James Bond copied us”は、なかなか有効だ。
また、案内した外国人から、ジョークを頂戴することもある。先日、カナダの夫婦が来訪した。私が“Do you have any castles in your country?”と聞くと、夫が“Yes, Newcastle!”というので、思わず私は笑ってしまった。彼は、自国の都市名と城とをかけたのだ。それ以来、カナダ人ゲストが来た時に、このやり取りを紹介すると、喜んでくれる。このジョークはオーストラリア人にも、応用できる。同国にも同名の都市があるからだ。この場合、架空の話ということになるが、White lieの範囲内であろうと考えている。
またフランス人家族を案内してときには、こんなこともあった。天守2階の甲冑の前で、“これは、大変重い”と説明していると、若い妻が、横の「甲冑を着た侍の絵」を指して”確かに、重そうだ。彼の顔は、疲れている”というので、笑ってしまった。私がこのジョークを聞いたのは初めてではない。2年前に、理事の赤羽健司さんが、このジョークで笑いを演出しているのを傍で聞いて、駆け出しの私はすっかり感心してしまった。その時と重ね合わせて、人間のユーモアの感覚は同じだなあと、再び感心した。
最後は、オランダ人夫婦との会話。天守1階の「しゃちほこ」の展示の前で、”城を火災から守っていると信じられている”と説明すると、陽気な夫が、“Does it work?”というので、即座に“I believe.”と答えると、彼は楽しそうに笑った。それをきっかけに、彼は、自分は消防士をしていると明かしてくれた。そして、6階で二十六夜神に話が及んだとき、彼は、職業柄、片隅にある消防用器具も目ざとく見つけた。そして”女神が守っているのに、なぜextinguisher?“と詰め寄る。私は咄嗟の答えに窮して、高笑いで誤魔化した。彼もちょっと意地悪いジョークを飛ばしただけだが、私は、後知恵で、同じ場面があれば、ジョークで応じようと思う。 ”Sometimes, she takes a nap.“ 女神に対して少々不敬かもしれない。しかしこれも松本市とお城の観光振興のためだとお許しを願うことにしている。いずれにしても、多用は禁物だが、ほどほどのジョークは「国境を越える即席パスポート」だと思っている。
中山安正